食のトラウマ
給食の時間が終わり、後片付けを終えて部屋に戻った。
すると隣のクラスの子が部屋の隅っこの机でまだ給食を食べていた。
「○○ちゃん、はやく食べなさい!じゃないと○○組に戻れないよ!」
担任が冷たく言い放った。
給食を全部食べないからこの部屋に連れてこられていたようだった。
その子は口をいっぱいにしたまま泣きながらこっちを見ていた。
そばに寄って背中をさすり「大丈夫?」と声をかけた。
すると担任は「○○ちゃん!ひとりで食べられるでしょ!」
まるで私に「近づくな」と言っているようだった。
お部屋でのお稽古が始まるころ、隣の組の担任が○○ちゃんの様子を見に来た。
「まだ食べてるの!もぐもぐしなさい!」
そういってその子の口をつかむ。
その子と目が合うたびに何度も「もぐもぐしなさい!」と威圧する。
「食べないと帰れないからね!」と脅す。
ついにその子は嘔吐してしまった。
「吐くのはだめっていったでしょ!」
手を引っ張られ、廊下に連れ出されたその子は私が今まで聞いたことのない声で泣き叫んでいた。
自分の見ている光景が信じられず、本当に体が震えた。
私は動けず、なにもできなかった。情けなかった。悔しかった。
それを見ていたはずの担任も、自分のクラスの稽古の指導をするだけで関わろうとしなかった。
廊下でひとしきり怒られて、またその子は担任に連れられて帰ってきた。
するとまた同じ机に座らされる。
私は「まさか」と思った。さっき嘔吐したものを処分した様子はなかった。
○○ちゃんはまた泣き出してしまう。
「うるさい!みんな今お稽古してるでしょう!」
担任がまた怒鳴りつける。
お稽古が終わってすぐ私はその子のもとに駆け寄り、食器を確認した。
(給食はお弁当なのでしきりがついている。)
○○ちゃんがまだ食べているものが入っているその隣の仕切りのなかに、嘔吐物が入ったままだった。
もう我慢できず、私はその子の担任に「あの。これ吐いたものが入ったままなのですが。」と話した。
「ああ。これ毎日の事だから気にしないで。」と冷たく言い放った。
あまりにもショックだった。しばらく動けなくなった。
○○ちゃんは泣きはらした目でこちらを見上げていた。
私はなにもできなかった。
私はその時の目が今も忘れられない。あの泣き叫ぶ声も。
自分がいまいる場所がわからず何のためにここに来たのかわからなくなった。
地獄だと思った。
その後掃除をしている時、その光景を思い出して何度も吐きそうになった。
あれはまぎれもなく「虐待」だ。
なのになぜ誰も声をあげないんだ。
あの子の心には取り返しのつかないくらい深い傷が残っているはずだ。
この日の研修が終わった後、私はもう辞めてしまう覚悟で園長に話をした。