悪夢の節分

節分の日。

鬼に扮した保育者が部屋に現れ、子どもたちは少し怯えた表情を見せる。

ここまではまだ微笑ましかった。

 

しかし鬼は部屋の中であるにもかかわらず子ども達を本気で追いかけまわす。

子ども達は必死で走って逃げるため、椅子が倒れたり机のそばで転ぶ子がいたりと非常に危険な状態に。

頭を打ったら大きなケガにつながるかもしれない。

私は子ども達がケガをしないようイスを拾い起こしたが、クラスの保育者は笑って子どもの怯える様子を見ているだけ。

 

すると普段よく保育者に怒られている子どもが、保育者に手を引っ張られ鬼の前に出される。

「ちゃんと言う事を聞くか~!」

鬼が怒鳴りながら子どもにせまる。あまりの恐怖にその子は泣きながら何度も

「言うこと聞く!言うこと聞く!言うこと聞く!」

 

まだ部屋の隅でひとり座って給食を食べている子も鬼のターゲットになり、鬼が迫ってくる恐怖にまだ口に食べ物が残っている状態で激しく泣き出す。

私は喉に詰めるのではないかとかなり心配になった。

 

さらに鬼は隣の部屋から○○ちゃん(嘔吐してもまだ給食を食べさせられていた子)を連れてきた。

○○ちゃんは今日もひとり残されて給食を食べていたようで、大泣きしているその口にはいっぱい食べ物が入っていた。

園長に相談した後日だったにもかかわらず、そんな事が起こっていた。

絶望感と怒りがこみ上げてきた。

 

四つん這いで必死で逃げようとする○○ちゃんの服をつかんでまで脅かそうとする鬼。○○ちゃんの口にはまだ食べ物が入っており、もし喉に詰まってしまったらという心配しかできなかった。泣き方も激しかった。

 

こんなのは節分じゃない。

節分は子どもを脅かすための行事ではない。

子ども達に保育者の言う事を聞かせるために鬼を利用しているだけであって、正しい文化や意味をなにひとつ伝えられていない。

 

なぜ○○ちゃんは給食を食べる度に、こんなに辛く恐ろしい思いをしなくてはならないのか。

私が園長に事実を伝えたことはなんの意味もなかったのか。

 

この日は金曜日だった。

勇気を持って行動したのだから、これからは何もかも上手くいく。

休日を楽しんだらまた頑張ろうと思っていた。

 

研修が終わって恋人の家に行った。

迎えられた玄関でしばらく動けなかった。

一緒に食事をしている時も子ども達の事が頭から離れなかった。

 

夜眠る前に真っ暗になった部屋の中で、夢だったのか、○○ちゃんの泣き叫ぶ声が頭のなかで聞こえた。

子ども達の悲しそうな表情が思い浮かんで私は耐えられなくなり恋人にすがりついて泣いた。

罪悪感でいっぱいだった。なにもできずにごめんなさい。保育者として失格だ。

結局辞めさせられるのが怖いから行動できなかったのではないか。

 

研修が始まってまだ間もないのに、もう辞めたい耐えられないと思った。

でも、私が辞めたところで子ども達はどうなるんだと悩んだ。