保育者失格

今日とうとう限界になってしまった。

 

朝駅までは行けたのに、電車に乗れなかった。

 

泣きながら親に「行けなかった」と電話した。

当然母親は怒る。

 

幼稚園に連絡し、月曜日に園長と話がしたいと伝えた。

 

家に戻る途中で偶然、出勤途中の父親に会った。

顔を見た瞬間に涙が勝手に出てきた。

幼稚園に行けなかった事を伝えると。

「社会人なら多少の人間関係のしんどさはあるぞ?」

「まぁでも、そんなに辛いなら辞めて他の道を探しなさい。」

「お母さんにもちゃんと話しなさい。」

 

家に戻るとやはり母親は怒っていた。

「なに?風邪なの?ちゃんと体調管理しなさい!」

私は体の不調だけではないことを伝えた。

すると

「そんなん社会人ならしょっちゅうあることでしょ!?」

「あんたいっつもそうじゃない!」

「何故きちんと調べて就職しなかったの!」

私は小声で反論するのが精一杯だった。

母親はきつい声をぶつけてくる。

疲労感とか絶望感、そういったものが体のなかでドロドロしていくような感じがした。

足元がグラグラしていた。

 

「あんたが辞めてもその子達はどうするの!?なんのために勉強してきたの!」

母親のその言葉を聞いたとたんに頭が真っ白になってぼーっとした。

荷物を投げ捨てて外に出て歩いた。

 

色んな事があたまでぐるぐる回る。

「あの子を見捨てたのか」

「体が動かない」

「また親に迷惑をかけてしまう」

「情けない」

「もう先生になんかなれない」

「全部無駄になったんだ」

「役立たず」

「消えたい」

「楽になるかな」

「消えたい」「消えたい」「消えたい」

 

家に戻り私は何故か(このあたりから記憶が薄い)荷物を持って母親に「私が死んでも大丈夫?悲しまない?よね」という感じの事を口にして母親が話しかけてくるのを無視して出ていった。

 

そこからはどこをどう歩いたのか覚えていない。ただ「ちょっと道をそれて歩いたら車にぶつかるかな。痛いかな。」とだけ考えていた。

ふと「今まで良くしてくれた恋人や家族や友達に最後になにもメッセージを残さないのは失礼だな。」と思って公園のベンチに座り、ノートと鉛筆でメッセージを書いた。

ふとスマホを見ると父親・母親・妹・弟の家族全員からの着信があった。驚いた。

留守電のメッセージを聞くと母親が

「自転車で探したのにいないじゃない!どこなの?もう出掛けなきゃいけないし、電話して!」

私は「ああ、迷惑かけないようにしなきゃ。」と思い、母親に電話をかけた。

「もしもし?出掛けてきていいよ。」

 

「やっと電話でた!今どこ!?あんな事言っていなくなったら心配するでしょ!残された人はどうなるの?とりあえず帰ってきなさい。」

残された人はどうなるの?

その言葉をよく考えてみた。

恋人と家族の顔が浮かんだ。

確かに、私なら想像できないくらい悲しくなる。

 

少しはっとして冷静になり、とにかく家に戻ることにした。

よく知らない公園にたどり着いてしまったので、帰り道に迷った。

 

もう「消えたい」とはあまり思っていなかったが、「帰っても必要とされない。お荷物だ。邪魔なだけだ。」と憂鬱な気分だった。

 

帰ると母親が車に乗っており、出掛けようとしていた。

「あんたひとりにできないわ!戻ろうか?」

「いや、いい。大丈夫。家にいる。」

 

そして今やっと落ち着いた頭でこれを書いている。

次の仕事を探すため、とりあえず転職サイトにも登録した。

 

今思い出しておぞましくなった。

本当になにかの拍子にスッと車にぶつかりにいけそうだった。

車を運転している人に迷惑をかけたり恐い思いをさせなくてよかった。

家族に悲しい思いをさせなくてよかった。

 

これで正しかったのだろうか。

いつか「あの時にこうしてよかった」と思えるようになるだろうか。